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『まちづくりからの小さな公共性』書評掲載『新潟日報』1/7付
執筆者の重信幸彦さんから許可をいただきましたので、下記に全文を掲載します。
村上の町屋 地域挙げ資源化
本書は、「まちづくり」紹介本というより、村上の戦後都市史の本である。村上に暮らす人々が、どのように現在の「城下町・村上」を作り上げてきたか。そこには、自らの暮らしのなかから「まちづくり」に向けて資源を発見し、それを語り、意味づけ、保存や活用等具体的かたちを与えていく資源化の過程がある。
問題は、それを誰がすすめていくか、である。著者は自発的な参加とつながりの可能性、さらに観光という外部のみを志向せずに、町の人々が「自らにも目がけて」資源化していくことの重要性に着目する。
そして、今日の「城下町・村上」を担うサケ、武家屋敷、町屋などが資源化された過程を、町の暮らしのひだに分け入り語っていく。
三面川のサケが村上の名産になる過程では、終戦直後まで武家に占有され、武家と町人とに村上を分断してきたサケの歴史を相対化する様々な実践が町の人々により具体化された。サケを村上の名産品にしてくことが、長く分断されてきた町の構造を解消していく一つの契機になったという。
そして武家屋敷若林家が、1977(昭和52)年に国の重要文化財に指定される。その保存修復にあたった工事関係者を中心に研究会が組織され、建築物に刻まれた技術と生活の痕跡から、町自体の記憶へと探求の可能性が広がった。青年会議所の呼びかけで複数の民間組織が自発的に関わり、武家屋敷を「村上」全体に開かれた「城下町」のイメージの資源として作りなしていった。
さらに町人の生活の記憶を刻む町屋の資源化は、その破壊を前提にした都市開発に反対した、一人の町屋住人が、1998(平成10)年に村上町屋商人会を結成するところから始まった。各店のひな人形を展示する「人形さま巡り」など、町屋を活用したイベントを具体化していく。
著者は、個々の町屋空間のイベントが生み出す、出会い、ことばを交わし美に触れる経験を「場の審美性/経験の遊楽性」と名付け、商いの稼ぎに直結しないこうした場に「小さな公共性」の可能性を見る。それらが重なり、地域から外部へ広がるネットワークが生み出され、「まちづくり」の橋頭堡が形成されるのである。
町屋を資源化する契機をつくった夫妻の、町の人を起こす、それがまちおこしではないか、ということばは、本書を貫くモチーフでもあり、それこそが村上という都市の戦後史を動かしてきたことを、本書は鮮やかに描き出している。
重信幸彦(民俗学者)
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定価 2,860円(税込)