新刊

消費と労働の文化社会学

やりがい搾取以降の「批判」を考える

消費と労働の文化社会学

労働の変化を問い直しながら、様々な消費文化と関わる労働を描きだし、外在的な批判を超える多様な「批判」のあり方を考える

著者 永田 大輔 編著
松永 伸太朗 編著
中村 香住 編著
ジャンル 社会・文化
テキスト
出版年月日 2023/01/31
書店発売日 2023/01/20
ISBN 9784779516900
判型・ページ数 A5 ・ 290ページ
定価 2,970円(税込)

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私たちはどのように文化を消費し、どのように生み出しているのか。

労働の変化を問い直しながら、様々な現代の消費文化と関わる労働を描きだし、外在的な批判を超える多様な「批判」のあり方を考える。

本書が注目したいのは,労働者の「生活」を中心に据えた記述を行っていくことが,批判的な意義をもちうるということである。客観的にみて恵まれた労働条件で働いているとはいえない労働者にとって,自らの職業生活をいかにして維持できるかは重要な問題である。本書で描かれるように,そのなかでも職業から退出せずに生計を立てるということについて,消費文化における労働者はさまざまな工夫を凝らしている。〔……〕そうした工夫が機能しなくなることがあるのならば,そこには連帯を労働者自身が求める契機が生じるだろう。〔……〕本書はこのようにして,たとえそれが直接的・明示的な批判ではないとしても,多様な批判のあり方を打ち立てることが可能であり,それによって消費文化と労働の関係をより豊かに把握することができることを描きたいのである。(「序章」より)

執筆者紹介(五十音順,*は編者)

永田大輔*(ながた だいすけ)
所  属:明星大学等非常勤講師
担  当:序章,第3章
主要著作:「ビデオをめぐるメディア経験の多層性――「コレクション」とオタクのカテゴリー運用をめぐって」(『ソシオロゴス』42: 84–100, 2018年)

石川洋行(いしかわ ひろゆき)
所  属:八洲学園大学非常勤講師
担  当:第1章
主要著作:「原発事故・戦争・広告支配――ポール・ヴィリリオと《消費社会の帝国》」(『メディウム』3: 163–185, 2022年)

林 凌(はやし りょう)
所  属:日本学術振興会特別研究員(PD)
担  当:第2章
主要著作:「人々が「消費者」を名乗るとき――近代日本における消費組合運動の所在」(『年報社会学論集』32: 143–154, 2019年)

谷原 吏(たにはら つかさ)
所  属:神田外語大学専任講師,国際大学GLOCOM客員研究員
担  当:第4章
主要著作:The bias of Twitter as an agenda-setter on COVID-19: An empirical research using log data and survey data in Japan.(Communication and the Public, 7(2): 67–83, 2022年)

井島大介(いじま だいすけ)
所  属:東京大学大学院学際情報学府博士課程
担  当:第5章
主要著作:「1990年代日本における雇用多様化をめぐる概念分析――『新時代の「日本的経営」』を事例に」(東京大学大学院学際情報学府修士論文,2020年),「なぜ〈人間〉は産業社会学の問題になるのか①
――尾高邦雄による「人間遡及的」の起源」(第95回日本社会学会大会(学会報告),2022年,共著)

髙橋かおり(たかはし かおり)
所  属:立教大学社会情報教育研究センター助教
担  当:第6章
主要著作:「仕事と遊びを読み替える芸術家の社会的役割――変化に応答する活動軌跡とその語りの分析から」(『新社会学研究』 7: 171–190, 2022年)

野村 駿(のむら はやお)
所  属:秋田大学教職課程・キャリア支援センター助教
担  当:第7章
主要著作:「夢を諦める契機――標準的ライフコースから離反するバンドマンの経験に着目して」(『教育社会学研究』110: 237–258,2022年)

上岡磨奈(かみおか まな)
所  属:慶應義塾大学大学院社会学研究科後期博士課程
担  当:第8章
主要著作:『アイドルについて葛藤しながら考えてみた――ジェンダー/パーソナリティ/「推し」』(青弓社,2022年,共編著)

中村香住*(なかむら かすみ)
所  属:慶應義塾大学文学部・同大学院社会学研究科非常勤講師
担  当:第9章
主要著作:「メイドカフェ店員のSNSブランディング――アイデンティティの維持管理という時間外労働」(田中東子[編]『ガールズ・メディア・スタディーズ』北樹出版: pp.46–63,2021年,共著収録論文)

鈴木優子(すずき ゆうこ)
所  属:筑波大学大学院人文社会科学研究科博士後期課程単位取得退学
担  当:第10章
主要著作:「「Being for me」(自分のためにいてくれる人)を求める子どもたち――中学生のメール依存とメディア特性」(『青少年問題』62: 46–51,2015年)

松村 淳(まつむら じゅん)
所  属:関西学院大学社会学部准教授
担  当:第11章
主要著作:『建築家として生きる――職業としての建築家の社会学』(晃洋書房,2021年)

中根多惠(なかね たえ)
所  属:愛知県立芸術大学音楽学部(教養教育等) 准教授
担  当:第12章
主要著作:『多国籍ユニオニズムの動員構造と戦略分析』(東信堂.2018年)

松永伸太朗*(まつなが しんたろう)
所  属:長野大学企業情報学部准教授
担  当:第13章,終章
主要著作:『アニメーターはどう働いているのか――集まって働くフリーランサーたちの労働社会学』(ナカニシヤ出版,2020年)

馬渡玲欧(まわたり れお)
所  属:名古屋市立大学大学院人間文化研究科専任講師
担  当:第14章
主要著作:「H・マルクーゼの文化論にみる管理社会論の契機――文化と労働の問題圏に着目して」(『社会学史研究』39: 61–79,2017年)
序 章 消費と労働の文化社会学
「やりがい搾取」以降の労働を捉える新たな視座 永田大輔

1 消費と労働の関係を捉え返す文化社会学的視点
2 やりがい搾取を再考する
3 フレキシビリティとアイデンティティ(感情)労働
4 非標準的労働編成における「当事者の論理」
5 個人化した労働における批判と運動
6 本書の構成

第1部 消費社会と労働者社会

第1章 消費社会における認識問題
社会変動と〈日本共同体〉のゆくえ 石川洋行

1 消費社会論の基礎的問題構制
2 産業構造の過渡的変容と「消費文化」の登場
3 「第二の社会変動」への自己意識としての消費社会論
4 「産業社会論」からみる成長の斜面:
ポストフォーディズムと日本型消費社会
5 現状を乗り越えるための「道具」を手に入れる

第2章 労働問題の源泉としての「新自由主義」?
労働者/消費者としての私たちをめぐって 林 凌

1 労働問題の社会学的記述と社会理論
2 批判的労働研究における問題のありか:「新自由主義」と「消費者主権」
3 繰り返される構図:「消費社会」批判と「新自由主義」批判の相同性
4 「消費者主権」のルーツとしての「国家問題」:労働者の権利と消費者の権利の対立
5 労働問題の源泉を探り出すために

第3章 なぜ「二次創作」は「消費」と呼ばれたのか
大塚英志の消費社会論を中心に 永田大輔

1 「データベース消費」と「物語消費」をめぐる理解
2 「創作」を「生産」と論じないこと
3 大塚英志の「消費」論
4 「物語消費」と「製作者」
5 物語消費論の射程再考


第4章 サラリーマン雑誌の系譜学
戦後日本の「中間文化」 谷原 吏

1 サラリーマンと「教養主義」
2 サラリーマンと週刊誌
3 サラリーマンと月刊雑誌:1980年代という転換点
4 90年代以降の動向
5 00年代におけるビジネススキルの一般化
6 サラリーマンの新たな「知」

第5章 「仕事で自己実現」を語ることはいかに可能になるのか
日経連『能力主義管理』を事例に 井島大介

1 経営者が自己実現を語る社会
2 『能力主義管理』を通して社会を見る方法
3 「意欲」評価を正当化する「効率」
4 「効率」のための「人間尊重」
5 自己実現人をめぐる社会学的研究の可能性

第2部 現代社会における生活とマネジメント

第6章 「やりたいこと」と〈仕事〉の分離・近接・管理
美術作家と音楽家の実践を事例として 髙橋かおり

1 「やりたいこと」と安定の天秤
2 「やりたいこと」と〈仕事〉の区別
3 芸術や文化に関わる人たちにとっての「やりたいこと」
4 「やりたいこと」と〈仕事〉の相互作用
5 〈仕事〉に基づいて「やりたいこと」を定める

第7章 夢を追うために正社員になる
文化・芸術活動者の労働を問う 野村 駿

1 問題の所在:夢追いフリーターはもう古い?
2 使用するデータ
3 夢追いバンドマンのフリーター選択・維持プロセス
4 正社員になった理由:「バンドマンはフリーターでなければならない」?
5 正社員バンドマンの困難と対処方法
6 まとめと考察:文化・芸術活動と労働の両立という難題

第8章 芸能という労働
「アイドル・ワールド」において共有される情熱の価値 上岡磨奈

1 アイドルという仕事
2 アイドル研究で語られてきたもの,こなかったもの
3 研究の対象と方法
4 アイドルの世界における時間,報酬,感情
5 むすびにかえて

第9章 メイドカフェにおける店員と客の親密性のマネジメント
「親密性の労働」としての「関係ワーク」の実践 中村香住

1 経済が介在するパターンの「親密性の労働」
2 「親密性の労働」の分析枠組みとしての「関係ワーク」
3 メイドカフェ店員の親密性のマネジメント実践:インタビューデータの分析
4 「キャラ」を介した「親密性の労働」と「生活」

第10章 学校における「心のケア」のマネジメント
心の教室相談員による実践の「外部性」と「限定性」に着目して 鈴木優子

1 ケアワーカーという管理的ワーク
2 本章の目的と問い:「心のケア」のマネジメントを捉える
3 分析視角
4 調査の概要
5 「外部の人」としての相談員
6 「できないと言っていい」:外部性と限定性
7 「心のケア」のマネジメント

第3部 個人化した労働と「批判」

第11章 親密性を基盤にしたネットワーク型の職業実践
建築系フリーランサーを事例に 松村 淳

1 建築家界の変容と多様なプレイヤーの流入
2 不安定職業としての建築職人
3 建築系フリーランサーのライフヒストリー
4 施主との関係性をつくる
5 フリーランス同士がつながるとき
6 彼らは新しいキャリアモデルを構築しうるのか
7 結  論

第12章 「労働」カテゴリーに抗う音楽家たちによる連帯への模索
芸術性と労働性の間にある「労働的なもの」のジレンマをめぐって 中根多惠

1 芸術と労働との距離をめぐるジレンマと労働運動
2 現代社会におけるカテゴリカルな連帯の困難性
3 労働運動のアクターとしての音楽家
4 「労働的なもの」を問い直す
5 希薄な労働者意識と労働者アイデンティティ
6 共鳴なき「労働」という運動フレーム
7 「労働」フレームに抗う音楽家と連帯への模索

第13章 労働者評価がもたらす個人間競争
熊沢誠の「強制された自発性」論とその含意 松永伸太朗

1 労働批判と労働者の自発性
2 消費文化と労働者評価
3 日本的経営における能力主義と「強制された自発性」
4 労働者評価と対人関係
5 いかにして労働者評価を透明化するのか:実践的な示唆
6 労働者評価をめぐる企業・職場要因とその改善

第14章 フランクフルト学派にとっての「文化と労働」とは何か
第一世代による社会批判に着目して 馬渡玲欧

1 フランクフルト学派第一世代の問題関心
2 プロレタリアートと全体性に対する逡巡/文化制度による社会統合:
ホルクハイマー
3 「文化産業」における労働批判の可能性:アドルノ
4 ワイマール労働者調査における労働者文化の実態:フロム
5 肯定的文化と労働国家,および感覚と身体化による抵抗:マルクーゼ
6 結  論

終 章 『消費と労働の文化社会学』の達成と広がり 松永伸太朗

1 本書の要約と到達点
2 労働社会学との接続
3 カルチュラル・スタディーズとの接続
4 個別性に即して消費と労働の結びつきを記述する

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