21世紀の産業・労働社会学

「働く人間」へのアプローチ

21世紀の産業・労働社会学

現代の労働の多面性を分析する多様な社会学のアプローチを「働く人間」に焦点をあて整理し、新たな産業と労働の社会学を再構築する

著者 松永 伸太朗 編著
園田 薫 編著
中川 宗人 編著
ジャンル 社会・文化  > 社会学
経済・経営
テキスト
出版年月日 2022/04/30
書店発売日 2022/04/28
ISBN 9784779516078
判型・ページ数 A5 ・ 302ページ
定価 3,080円(税込)

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現代の労働の多面性を社会学で捉えるために

現代の労働の多面性を分析するために対象・方法論・アプローチが多様化した労働をめぐる昨今の社会学的研究を、「働く人間」に焦点をあてる人間溯及的視点という基礎概念から整理し、産業・労働社会学の独自性を再構築する最新テキスト。

人間溯及的視点とは,労働にかかわる行為や現象の背後にある人間の社会的な営みに考察を及ばせる態度のことを指す。産業・労働社会学の祖である尾高邦雄は,この視点をもって異なる理論枠組みをもっていた職業社会学・労働社会学・産業社会学を結びつけ,産業・労働社会学としての新たなアイデンティティを形成し,その協働を生み出していた。
人間溯及的視点にこだわった尾高に端を発する産業・労働社会学は,そこで働く人間を通して労働現象を把握しようと試みてきた。これまで産業・労働社会学は,「企業」「労働者」「理論・社会状況」というあらゆる角度から,様々な研究対象を様々な分析方法で扱ってきたものの,つねに働く人々の意識や行為を記述し,理解することに注力してきたといえる。働く人間の存在なくして,労働現象の社会学的な分析は成り立たない。いわばその学問的な姿勢こそが,社会学であることにこだわる人間溯及的アプローチの本質だといえるだろう。
近年改めて注目される機会もなくなった人間溯及的視点という概念にあえてスポットライトを当てるのは,この労働現象を扱う社会学として最も基礎的な分析概念に立ち返ることで,多様化する労働現象を扱う領域社会学を再び一つの視点から解釈することが可能になるためである。背負った理論や学問的独自性の異なる領域社会学の知見を,いわば人間溯及的という視点を共有することで,一つの「学」として整理する。この作業を通して,それぞれの領域社会学の視点を労働研究の現代的文脈における社会学の独自性としてまとめなおし,対象と方法論の多様性という社会学の強みを生かした形で再展開する。本書は,対象・方法論・アプローチが多様化した労働をめぐる昨今の社会学的研究を,人間溯及的視点という概念から整理し,21世紀の産業・労働社会学としてその独自性の再構築を試みるものである。

著者紹介 * は編著者

松永 伸太朗*(まつなが しんたろう)
長野大学 企業情報学部 准教授。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了 博士(社会学)。
主要業績:(1)『アニメーターの社会学――職業規範と労働問題』(三重大学出版会, 2017年),(2)『アニメーターはどう働いているのか――集まって働くフリーランサーたちの労働社会学』(ナカニシヤ出版, 2020年),(3)『産業変動の労働社会学――アニメーターの経験史』(晃洋書房, 2022年, 永田大輔との共著)
担当:序章・第2部イントロダクション・第11章・第13章・終章

中川 宗人*(なかがわ むねと)
青森公立大学 経営経済学部 講師。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)。
主要業績:(1)「祝辞における労働とジェンダー――鐘紡・武藤山治の女性労働者に対する認識の分析を通して」(『年報社会学論集』30, 2017年),(2)「労働における〈日本型システム〉論の反省と展望」(『学術の動向』23(9), 2018年),(3)「戦後日本の産業・労働社会学における問題構成の一側面――教科書の分析を通して」(『年報社会学論集』33, 2020年)
担当:序章・第1部イントロダクション・第3章・終章

園田 薫*(そのだ かおる)
日本学術振興会 特別研究員PD(法政大学)。東京大学大学院人文社会系研究科博士後期課程修了 博士(社会学)。
主要業績:(1)「専門的外国人の〈企業選択〉と〈国家選択〉――日本企業への新卒就職を中心に」(『社会学評論』70, 2019年),(2)「外国人の就労継続・離職を動機づける日本企業への認識――職場での国籍カテゴリーをめぐる排除と包摂」(『ソシオロジ』66(2),2021年),(3)「日本の産業社会学における隘路と今日的課題」(『年報社会学論集』34, 2021 年)
担当:序章・第2章・第3部イントロダクション・第12章・終章

吉田 航(よしだ わたる)
国立社会保障・人口問題研究所 研究員。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得満期退学 修士(学術)。
主要業績:(1)「新卒採用のジェンダー不平等をもたらす企業の組織的要因――企業の経営状況との関連に着目して」(『社会学評論』71(2), 2020年),(2)「国内大企業の新卒採用における学校歴の位置づけ――大学別採用実績データの計量分析から」(『教育社会学研究』107, 2020年)
担当:第1章

長谷部 弘道(はせべ ひろみち)
杏林大学 総合政策学部 准教授。一橋大学社会学研究科博士後期課程修了 博士(社会学)。
主要業績:(1)「職能資格制度の形成史を辿る」(『商学論纂』62(5・6), 2021年),(2)「戦後電機企業における「企業コミュニティ」と福利厚生――工場新聞『日立笠戸』を手掛かりに」(『社会志林』66(4), 2020年),(3)「ディジタル録音技術の技術開発――ソニーにおける技術者の主体的行為を中心に」(『経営史学』51(4), 2017年)
担当:第4章

樋口 あゆみ(ひぐち あゆみ)
福岡大学 商学部 講師。東京大学大学院総合文化研究科博士課程満期取得退学 修士(学術)。
主要業績:(1)「組織における時間感覚――出来事としての時間の過去と未来」(『組織学会大会論文集』6(2), 2017年),(2)「組織社会学から見た『ほぼ日』」(『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』WEB版, 2017年),(3)‘Double Symmetry in Niklas Luhmann’s Moral Communication’(Kybernetes, 51(5),2022年)
担当:第5章

小川 和孝(おがわ かつのり)
東北大学大学院 文学研究科 准教授。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了 博士(教育学)。
主要業績:(1)『教育劣位社会――教育費をめぐる世論の社会学』(共著, 岩波書店, 2016年),(2)「社会的属性と収入の不安定性――グループ内の不平等に注目した分析」(『理論と方法』31(1), 2016年)、(3)「高卒者の初職地位達成における雇用主の選抜メカニズムに関する研究――学校経由の就職の効果についての再検討」(『教育社会学研究』98, 2014年)
担当:第6章

妹尾 麻美(せのお あさみ)
追手門学院大学 社会学部 准教授。大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程単位修得退学 博士(人間科学)。
主要業績:(1)「就職活動過程における女子大学生のライフコース展望」(『年報教育の境界』16, 2019年),(2)「求人メディア利用の変化から「人=メディア」を考える――新規大卒就職を例に」(岡本健・松井広志編『ポスト情報メディア論』ナカニシヤ出版, 2018年)
担当:第7章

寺澤 さやか(てらざわ さやか)
東京大学 社会科学研究所 特任研究員。東京大学大学院教育学研究科 博士後期課程 満期退学 修士(教育学)。
主要業績:(1)「不妊治療を受ける女性の職場経験――「職場に対する治療の開示」の限界に着目して」(『ソシオロゴス』44, 2020年),(2)「不妊治療および生殖補助医療とリプロダクティブ・ヘルス/ライツ――アメリカの研究動向からの示唆」(『東京大学大学院教育学研究科紀要』58, 2019年)
担当:第8章

井草 剛(いぐさ ごう)
松山大学 経済学部 准教授。早稲田大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了 博士(人間科学)。
主要業績:(1)「若手医師の年次有給休暇取得を困難にしている要因について」(『労働社会学研究』14, 2013年),(2)「年休取得の6類型――職場レベルでの年休運用に関する一考察」(『日本労働社会学会年報』22, 2011年),(3)「Goal Oriented Rational Behavior on Paid Holidays for Female Workers: Empirical Analysis of Influence to Income by Using Paid Holidays」(『年報社会学論集』24, 2011年)
担当:第9章

朴 知遠(ぱく じおん)
KAIST(韓国科学技術院)経営大学院 研究員。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了 修士(社会学)。
主要業績:(1)「アジア長期経済統計シリーズ(4)韓国・北朝鮮版」(校訂・監修)(2019年),(2)“Unemployment policies of East Asian countries”(Welfare to work project-sponsored by National Employment Services Association, Australian Government, Comparison study, 2019年),(3)「外国人留学生労働者のエスノグラフィー――Z 居酒屋の参与観察を通じて」(『日本労働社会学会年報』32, 2021年)
担当:第10章

西田 尚輝(にしだ なおき)
東京大学大学院 総合文化研究科 博士後期課程/日本学術振興会 特別研究員DC1/パリ第1パンテオン・ソルボンヌ大学 現代世界社会史センター(CHS) 客員研究員。東京大学大学院総合文化研究科博士前期課程修了 修士(学術)。
主要業績:(1)「福祉国家拡大の費用を誰が拠出するのか――戦間期ヨーロッパの失業保険の比較歴史分析」(『社会学評論』71, 2020年),(2)「失業カテゴリー形成の社会的・歴史的分析――19世紀前半の社会経済学を中心に」(『日仏社会学会年報』30, 2019年),(3)「18世紀フランスの「社会性」概念にかんする思想史的研究――利己心・商業・社交」(『相関社会科学』28, 2019年)
担当:第14章

中根 多惠(なかね たえ)
愛知県立芸術大学 音楽学部 准教授。名古屋大学大学院環境学研究科博士後期課程単位取得満了 博士(社会学)。
主要業績:(1)『多国籍ユニオニズムの動員構造と戦略分析』(東信堂, 2018年),(2)『問いからはじめる社会運動論』(共著, 有斐閣, 2020年),(3)「多国籍ユニオニズムにおけるホスト社会からの支持動員――動員のためのフレーム調整に着目して」(『日本労働社会学年報』25, 2014年)
担当:第15章
序 章 「働くこと」の社会学を再考する
 産業・労働社会学の21世紀的展開と展望

松永 伸太朗・中川 宗人・園田 薫

1 「働くこと」をめぐる視点の複数性と社会学の立場
2 労働をめぐる社会学の拡散状況
3 「働く人間へのアプローチ」という起源
4 企業と労働市場
5 労働者と労働現場
6 企業・労働市場と労働者をめぐる理論と学説


第1部 企業と労働市場

第1部 イントロダクション
 働く場の境界,構造,変容に迫る

中川 宗人

1 働く場への着目
2 日本的雇用システムの概要
3 日本的雇用システムの研究史
4 働く場へのアプローチの焦点としての組織

第1章 企業データの計量分析からみる新卒採用のジェンダー不平等
 WLB施策と企業の経営状況との関連から

吉田 航

1 問題設定:採用のジェンダー不平等を企業から捉える
2 先行研究と仮説:WLB施策の効果は,企業業績によって変わるのか?
3 方法:企業データの計量分析
4 分析結果:企業業績によって変化するWLB施策の効果
5 解釈:WLB施策をめぐる陥穽
6 結論:雇用の不平等生成メカニズムの解明に向けて

第2章 外国人を採用する日本企業の説明と認識
 社会の論理と企業の論理の交差点

園田 薫

1 日本企業は外国人とどのように向き合ってきたのか
2 企業の行動に潜む人間性を検討する意義
3 本章の扱うデータと対象
4 外国人の採用をめぐる二つの説明と認識
5 企業にとって望ましい外国人とは何か

第3章 経営モデルの企業組織への導入
 1940~60年代における「人間関係論」を対象として

中川 宗人

1 はじめに
2 課題と方法
3 人間関係論の導入過程の検討
4 おわりに

第4章 企業と地域の結節点としての「企業内コミュニティ」
 日立製作所における自衛消防隊の三つの機能

長谷部 弘道

1 企業コミュニティ論の課題
2 地域コミュニティをめぐる研究の課題と本章の目的
3 日立製作所における消防隊の発足とその機能
4 結論と展望

第5章 組織境界の複数性
 組織は多様な活動をどのように可能にしているのか

樋口 あゆみ

1 なぜ組織境界の境界が問題となるのか
2 先行研究と本章の立場
3 安定的境界から動態的境界へ
4 組織の開放性と閉鎖性はいかに記述可能か
5 「組織境界が複数ある」とはどのような意味においてか
6 動態的境界とつき合い続けるマネジメント


第2部 労働者と労働現場

第2部 イントロダクション
 「労働者であること」とはいかなることか?

松永 伸太朗

1 社会秩序を形成する主体としての労働者
2 労働者になること:社会化の問題
3 労働者であることと社会的役割との葛藤
4 労働現場における労働者の多面性

第6章 教育システムと労働市場のリンケージ
 日本の職業教育の強さに関する社会階層研究からのアプローチ

小川 和孝

1 本章の目的と構成
2 社会階層研究における「労働」の捉え方
3 教育システムと労働市場の関連性
4 学校から仕事への移行に関する日本社会の制度的文脈
5 教育システムの国際比較における日本の位置づけ
6 ミクロレベルで教育–職業のリンケージを捉えるアプローチ
7 結 論 

第7章 日本的な働き方と対峙する大学生 
就職活動過程の検討を通じて

妹尾 麻美

1 問われてこなかった就職活動
2 ライフコースと仕事
3 状況の定義という視座
4 大学生の就職活動過程
5 「サラリーマン」になること

第8章 不妊治療と仕事の両立の葛藤をめぐる計量テキスト分析
 職種の違いに着目して

寺澤 さやか

1 不妊治療という盲点
2 職種を問う必要性
3 「不妊治療と仕事の両立」という課題の特異性
4 不妊治療の経験についての計量テキスト分析
5 職種ごとの特徴
6 女性労働研究に不妊治療を位置づける

第9章 新型コロナウィルス感染症の影響下における年休取得行動
 コロナ禍で実施したアンケート調査の計量テキスト分析から

井草 剛

1 日本の年休取得
2 コロナ禍で年休を残す理由
3 年休に関する先行研究
4 調査の概要と主な集計結果
5 アンケートの分析
6 年休取得行動の変化と今後の課題

第10章 日本の外国人労働者問題
 単純労働力としての留学生労働者を中心に

朴 知遠

1 少子高齢化と外国人労働者の受け入れ,そして留学生
2 先行研究分析
3 先行研究の問題点と解決策:重層的存在としての留学生
4 現場研究の具体例:サービス職パートタイマー留学生に対する参与観察研究
5 パンデミック以降の外国人受け入れ政策の変化:留学生を中心に
6 結論:今後の変化と留学生労働研究の課題

第11章 労働時間の弾力化と「リズムの専門性」
 フリーランス労働における無収入リスクへの対処を事例として

松永 伸太朗

1 労働時間の弾力化と個人による労働時間管理
2 産業・労働社会学における労働の「時間経験」と「リズムの専門性」
3 アニメーターの仕事の特徴
4 「リズムの専門家」としてのアニメーター
5 労働時間の社会学的記述


第3部 企業・労働市場と労働者をめぐる理論と学説

第3部 イントロダクション
 社会学はいかに「働くこと」を捉えるのか

園田 薫

1 社会学で「働くこと」はどのように捉えられてきたのか
2 日本の社会学は何を明らかにしてきたのか
3 社会構造の変容と「21世紀の産業・労働社会学」の構築に向けて

第12章 日本の産業・労働社会学の学説史的反省
 経済現象を捉える領域社会学との関係性に着目して

園田 薫

1 問題関心と先行研究の整理:多様化する領域社会学の俯瞰と学説史的分析の意義
2 労働現象を扱う領域社会学の現在
3 「産業・労働社会学」はいかに形成されたのか
4 「21世紀の産業・労働社会学」の構築に向けて

第13章 「当事者の論理」を記述するとはいかなることか
 マイケル・ブラウォイの同意生産論のエスノメソドロジー的再考

松永 伸太朗

1 産業・労働社会学における方法論的議論の欠如
2 ブラウォイの同意生産論
3 規則–実践の関係の記述へ
4 「当事者の論理」と労働社会学

第14章 失業が作る近代
 戦中・戦後日本の社会政策思想はなぜ西洋由来の失業概念を用いたのか

西田 尚輝

1 失業概念をめぐる歴史と政治
2 社会的構築物としての失業カテゴリー
3 戦間期と戦後改革期の日本における失業問題と社会政策思想
4 カテゴリーという現実への批判的視座

第15章 「新しい社会運動」論と労働運動論
 労働運動の質的転換と社会運動論的変数の検討

中根 多惠

1 労働社会学と社会運動論の乖離
2 労働社会学の視座から:労働運動の質的転換と河西宏祐の運動論
3 社会運動論の視座から:理論的パラダイムシフトによる労働運動の等閑視
4 労働社会学で「社会運動論的変数」を検討する


終 章 21世紀の産業・労働社会学の構想に向けて
 領域社会学における境界認識の転換とプラットフォーム化

園田 薫・中川 宗人・松永 伸太朗

1 「働くこと」をめぐる視点の複数性と社会学の立場について
2 労働現象の社会学をめぐる拡散状況について
3 人間溯及的視点について
4 論じられていないもの
5 労働研究にたいして


事項索引
人名索引

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